Issue5
Current View on Urology Issue5
最近の学術誌から

■前立腺癌
(1)前立腺幹細胞は腺上皮
A luminal epithelial stem cell that is a cell of origin for prostate cancer
Wang X, et al. : Nature.461 : 495-500,2009

前立腺上皮細胞の分化マーカーであるNkx3-1に注目し、castrationを行ってもNkx3-1を発現しているcastration-resistant Nkx3-1-expressing cell:CARNが前立腺上皮幹細胞であると考えられた。さらにCARN細胞においてPten遺伝子を細胞特異的にノックアウトすると癌が発生した。CARN細胞は前立腺発癌での標的細胞である。

  • 前立腺はluminal cellとbasal cellに2層性を保っている。前立腺の幹細胞はbasal cellにあるという考え方もあったが、Nkx3-1に注目した今回の研究は、CARNでPten遺伝子が欠失すると癌ができることで、前立腺癌幹細胞を供給すると考えられる。前立腺の意義は臓器の機能もさることながら、高い頻度でがん化することに研究理由があるので、ひとつの解がついに得られたと考えてよいだろう。


(2)前立腺癌の転移巣は単一クローン
Copy number analysis indicates monoclonal origin of lethal metastatic prostate cancer
Liu W, et al. : Nat Med.15 : 559-65,2009

前立腺癌は多中心性であり、多クローンの癌から構成されている。本論文では、DNAコピー数のゲノム解析から、前立腺癌の転移巣は原発性前立腺癌の単一クローンに起因していることが示された。

  • 転移癌が単一クローンに起因していることは、原発巣が形成されるまでの時間に比べて、転移が広がる時間が明らかに短いことから想像がつく。しかし、genomicsが同じであっても染色体の修飾であるエピジェネティックスは異なっていることから、今後はエピジェネティックスあるいはiRNAの検討が行われるだろう。


(3)前立腺癌のリスクと人種差
Racial differences in risk of prostate cancer associated with metabolic syndrome
Beebe-Dimmer JL, et al. : Urology.74 : 185-90,2009

アフリカ系アメリカ人にとって、メタボリックシンドロームが前立腺癌のリスクと関連していたが、白人においては関連が認められなかった。

  • 白人においては高血圧が、アフリカ系アメリカ人にとっては肥満が、high Gleason癌のリスクを高めている。遺伝的背景と食生活が異なるとリスク因子も異なってくるという興味深い論文。


(4)サプリは危ない!
Folic acid and risk of prostate cancer: results from a randomized clinical trial
Figueiredo JC, et al. : J Natl Cancer Inst.101 : 432-5,2009

大腸癌の予防のトライアルの副産物として、前立腺癌の発症について検討した論文。アスピリン内服群では前立腺癌の発症に差がなかったが、葉酸のサプリメント内服群で、前立腺癌の発症が約3倍増加した。

  • 葉酸の血中濃度が高いほうが前立腺癌は発症しにくいのにも関わらず、サプリで葉酸を摂取すると逆効果になってしまう。なるべく食事からというのが一次予防の基本か。


(5)High grade PIN の取り扱い
Multifocal high grade prostatic intraepithelial neoplasia is a significant risk factor for prostatic adenocarcinoma
Merrimen JL, et al. : J Urol.182 : 485-90,2009

Epsiteinらの検討では、生検でのhigh grade PINの存在は、再生検時の癌陽性率に関係しないとされている。本検討では、初回前立腺針生検において、high grade PINが複数箇所検出された場合には、前立腺癌が再生検時により高率に検出された。high grade PINが複数箇所検出された場合には、再生検を考慮しなければならない。

  • High grade PINについても、複数のcoreに認める場合はhigh Gleason癌がある可能性が高いので1年以内に再生検が望ましい。


( 6)前立腺癌の転帰を予測するCAPRA score
Risk assessment for prostate cancer metastasis and mortality at the time of diagnosis
Cooperberg MR, et al. : J Natl Cancer Inst.101 : 878-87,2009

PSA値、前立腺針生検時のGleasonスコア、年齢、臨床病期、生検陽性数をスコア化したCancer of the Prostate Risk Assessment(CAPRA)スコアは、根治的前立腺全摘除術や放射線療法など初期治療の種類にかかわらず、限局性前立腺癌の転移、癌特異死亡率、死亡率を予測できる。

  • CAPRAスコア 8以上は癌死が多いlethal phenotypeであるが、overall survival 5年が72% と低いことから、他因死も多いのはなぜだろう。前立腺癌も生活習慣病なのか。おそらく日本人はより健康長寿であろうが、患者との対話に有益な論文。


(7)Active surveillanceの多くは有意義な癌
Final outcomes of patients with low-risk prostate cancer suitable for active surveillance but treated surgically
Louie-Johnsun M, et al. : BJU Int.May 7.2009 [epub]

1080名の腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術を受けた患者の摘出標本を評価した結果、術前、insignificant cancerと予測されていた患者の61%がsignificant cancerであった。術前low riskと評価されても、active surveillanceには注意が必要である。

  • 癌のvolumeと悪性度がわかる画像診断が開発できれば、このような問題は解決しよう。しかし、significant cancerでも死亡者はわずかであるが...


(8)放射線治療には3年間ADTを
Duration of androgen suppression in the treatment of prostate cancer
Bolla M, et al. : N Engl J Med.360 : 2516-27,2009

局所進行前立腺癌に対する放射線外照射で、内分泌療法を6ヵ月受ける群と3年受ける群に無作為に分けて生存率を検討した。5年生存率は、3年群が有意に高かった。心血管疾患死亡には差がなかった。

  • EORTCの臨床試験。70歳、治療前PSAの中央値は19、T3主体で、癌死だけでなく他因死でも長期内分泌群が少ないのはなぜなのか?放射線治療の毒性を内分泌治療が緩和する?


(9)CRPCにテストステロン投与!?
Phase 1 trial of high-dose exogenous testosterone in patients with castration-resistant metastatic prostate cancer
Morris MJ, et al. : Eur Urol.56 : 237-44,2009

内分泌不応癌(castration-resistant prostate cancer)に高用量のテストステロンを投与したphase I試験。安全性は問題なく、PSAが50%以上減少した症例があった。

  • 大用量のテストステロンはむしろ前立腺癌細胞の増殖を抑制することから、臨床試験が行われた。CRPCではテストステロン投与は腫瘍縮小効果があるかもしれない。


(10)NSAIDとPSA
Association of nonsteroidal anti-inflammatory drugs, prostate specific antigen and prostate volume
Fowke JH, et al. : J Urol.181 : 2064-70,2009

NSAID服用によるPSAの変化と生検での前立腺癌の検出を検討した。アスピリン服用者は9%PSAが低く、Gleasonスコア 6の癌、あるいは体積が60mlの大きい前立腺では有意にPSAが低い値で癌が見つかった。

  • PSA値にどの程度炎症が貢献しているだろう。この研究から、NSAIDで抑えられる炎症は平均10%程度PSA値に貢献していることがわかる。炎症を抑えるとhigh Gleason癌への進行を抑えられるか興味深い。


(11)手術後の「良性」PSA上昇?
Does benign prostatic tissue contribute to measurable PSA levels after radical prostatectomy?
Godoy G, et al. : Urology.74 : 167-70,2009

根治的前立腺全摘後の残存良性前立腺組織の再生によるPSA値について低リスク癌である術前PSA<10 ng/ml, T1c-T2a, Gleasonスコア 6以下の手術患者331名でのPSA値の推移を検討した。術後3ヵ月から6年で測定可能域へPSAが上昇した患者は2名(0.6%)であった。したがって、良性前立腺組織が再生してPSA値が上昇することは考えにくい。

  • PSA値が上昇した2名のPSADTは102ヵ月と34ヵ月と長いことから、良性前立腺組織の再生によりPSA値は上昇したのだと考えられる。しかし、PSAが術後0.001から徐々に上昇していくことはあまり珍しくないのだが...


(12)RANKL 阻害の骨への効果
Denosumab in men receiving androgen-deprivation therapy for prostate cancer
Smith MR, et al. : N Engl J Med.361 : 745-55,2009

RANKLに結合する完全ヒト型モノクローナル抗体のdenosumabを、内分泌療法中の前立腺癌患者に6ヵ月ごとに投与する第III相無作為試験を行ったところ、骨密度が増加し、骨関連事象が減少した。

  • 骨芽細胞に発現するNF-κB活性化受容体リガンド(RANKL)は、破骨細胞の分化、活性化の主要なメディエータである。Denosumabは乳癌や関節リウマチなど多くの疾患で治験が行われており、ビスフォスフォネートに加えて、新たな武器を得ることになる。


■BPH/LUTS・OAB
(13)TURP後の死亡リスク
Development and external validation of a highly accurate nomogram for the prediction of perioperative mortality after transurethral resection of the prostate for benign prostatic hyperplasia
Jeldres C, et al. : J Urol. 2009 182 : 626-32,2009

TUR-P手術でも、稀に周術期死亡が起こる。本研究では7362人のTUR-P症例を分析し、術後30日での死亡率を予見する、ノモグラムを開発した。年齢と基礎疾患のスコアであるCharlson comorbidity indexが死亡率に影響を与える因子であった。このノモグラムを用いる事により、TUR-Pの術後死亡に関して83%の精度で予測が可能である。

  • 手術を行うべきでない集団を予知することが臨床力だが、このノモグラムは若い先生にとって大変役に立つ。日本でもDPCを活用したデータを出すことが期待される。


(14)神経因性膀胱ガイドライン
EAU guidelines on neurogenic lower urinary tract dysfunction
Sto¨hrer M, et al. : Eur Urol.56 : 81-88,2009

神経因性下部尿路機能障害(NLUTD)に関する2008年版EAUガイドライン。NLUTDのリスク因子および疫学、分類体系、診断と治療のタイミング、診断方法、治療法、QOL評価、追跡検査から構成されている。治療に当たっては長期的な展望と患者の希望を十分に考慮に入れることが強調されている。

  • 教科書ではさっぱりわからないNLUTDがMadersbacherの分類で明快に整理できる。ビデオウロダイナミクスは既に標準的な診断法であり、日本でも学会主導の講習が必要だろう。EAUの教育的資源は充実している。このガイドラインは
    http://www.uroweb.org/nc/professionalresources/guidelines/online/
    で見ることができる。


(15)ナフトピジルは膀胱に効く
Clinical efficacy of naftopidil on lower urinary tract symptoms after radical prostatectomy
Ishizaka K, et al. : Int J Urol. 16 : 299-302,2009

前立腺全摘除術(RRP)後の排尿症状の改善にナフトピジルを用いた報告。RRPを1年以上前に受けた患者29人(平均年齢77歳)を対象としてナフトピジル75mgを用いたところLUTSの改善が認められた。

  • RRP後のLUTSは高齢者に見られるようだ。高齢RRP患者での少数one-armの検討であるが、LUTSの発症機序と治療に示唆を与える。RRP後になぜ膀胱機能が衰える(J Urol. 171: 1563-6, 2004)のか?α1-遮断薬で膀胱血流が増えるという論文もある(BJU Int. 101: 319-324, 2008)。


(16)BPH治療と容積の変遷
Contemporary patients with LUTS/BPH requiring prostatectomy have long-term history of treatment with alpha(1)-blockers and large prostates compared with past cases
Takeuchi M, et al. : Urology.74 : 606-10,2009

  • BPH手術患者での薬物治療と前立腺容積についての20年の変遷を調査した。TURPはα1-遮断薬が導入された1987年以降減少した。現在80%の患者は術前にα1-遮断薬を用いており、その平均使用期間は3年間である。手術対象患者の前立腺容積は1987年と比較し約2倍に増加している。


  • Tertiary instituteのデータとして興味深い。α1-遮断薬の賞味期限は3年だが、5α還元酵素阻害薬の導入により、より長期化が予想される。手術症例はより腺腫が大きくなり、TURPは難しくなる。より簡単なHoLEPやKTPが主流になろう。


(17)高血圧とLUTS
Efficacy of combined amlodipine/terazosin therapy in male hypertensive patients with lower urinary tract symptoms: a randomized, double-blind clinical trial
Liu H, et al. : Urology.74 : 130-6,2009

Ca遮断薬とα1-遮断薬の併用による、高血圧を有するLUTSの尿路症状軽減の無作為化比較試験(RCT)。アムロジピン群と、テラゾシン群、併用群を用いて排尿症状、降圧効果を比較した。アムロジピン単独でもIPSS、OABスコアの改善を認めた。

  • 尿流測定による他覚所見がないものの、よく計画されたRCT。高血圧のあるOABにはまずCa遮断薬か。塩酸プロピベリンにもCa遮断作用がある。降圧剤は最近合剤が多いが、LUTSでも開発されるかもしれない。


(18)サイアザイドが夜間頻尿に効く
Alpha-blocker plus diuretic combination therapy as second-line treatment for nocturia in men with LUTS: a pilot study
Cho MC, et al. : Urology.73 : 549-53,2009

夜間頻尿に対してα-遮断薬に利尿剤を加えて、夜間頻尿を軽減しようとする試み。テラゾシンとサイアザイドの併用で、IPSSと夜間頻尿の減少が認められた。

  • サイアザイドは利尿薬であるが、昼間尿量は増加していないのに、夜間頻尿が改善している。むしろこの治療も血圧に関係している可能性がある。夜間高血圧と夜間頻尿は重要なテーマかもしれない。


(19)男性腹圧性尿失禁患者への骨固定式尿道スリング術
The bone anchor suburethral synthetic sling for iatrogenic male incontinence: critical evaluation at a mean 3-year followup
Giberti C, et al. : Urol.181 : 2204-8,2009

医原性の男性腹圧性尿失禁(MSI)患者40人(前立腺全摘除術、TURP後)に対して骨固定式尿道スリング術(BAUS)を行い3年後の結果を検討した。67%に完治、もしくは改善が認められ、長期間にわたるスリング術の有効性が示された。

  • MSIにはよい治療がなかったが、BAUSはある程度期待が持てる。しかし放射線治療後には有効でない。BJU Int. 103: 500-4, 2009に同様の論文がある。



■Men’s Health
(20)ラパマイシンの寿命延長効果
Rapamycin fed late in life extends lifespan in genetically heterogeneous mice
Harrison DE, et al. : Nature.460 : 392-5,2009

mTOR signallingの阻害薬であるラパマイシンを高齢ネズミに投与すると、悪性腫瘍が減り寿命が延長した。

  • mTOR(mammalian target of rapamycin)はラパマイシンの標的分子として同定されたセリン・スレオニンキナーゼであり、細胞の分裂や成長、生存における調節因子としての役割を果たしている。mTOR阻害薬は腎細胞癌に対して高い臨床効果を持つ。p53やPTENなどの癌抑制遺伝子はヒト腫瘍細胞において高率に変異が認められることが知られているが、興味深いことに、これらの遺伝子に変異を持つ細胞はmTOR阻害薬に対して高感受性である。加えて高齢からでも服用すると寿命を延ばすのは、驚き!


(21)カロリー制限で霊長類も健康長寿
Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys
Colman RJ, et al. : Science.325 : 201-4,2009

カロリー制限(Caloric restriction)が下等動物からげっ歯類まで寿命を延ばすことが知られている。アカゲザルを20年間、通常の餌で飼育した群(コントロール群)と30%カロリーオフの群(CR群)で寿命を検討したところ、コントロール群が50%死亡した時点でCR群は80%生存しており、糖尿病、癌、心血管疾患、脳萎縮の頻度が少なかった。

  • カロリー制限を行うと、細胞寿命を延ばすサーチュイン(Sirtuin)と呼ばれる酵素が活性化することが知られている。また赤ワインに含まれるレスベラトロールもサーチュインを活性化する。腹七分目が健康寿命によい!?


(22)糖尿病とテストステロン
Androgen pattern in patients with type 2 diabetes-associated erectile dysfunction: impact of metabolic control
El-Sakka AI, et al. : Urology.74 : 552-9,2009

159人の糖尿病を合併するED患者で総テストステロン、DHEA-S、インスリン濃度を検討した。糖尿病治療により、総テストステロンは上昇した。糖尿病のコントロールとテストステロン値の正常化が相関した。

  • 高インスリン血症と高血糖は中枢性の性腺機能低下症 (Hypogonadotrophic hypogonadism)と関連することが知られている。中枢のインスリン受容体は性ホルモン分泌に関連する。Science. 289: 2122-5, 2000参照


(23)PDE5阻害薬は血管内皮機能を高める
Serum biomarker measurements of endothelial function and oxidative stress after daily dosing of sildenafil in type 2 diabetic men with erectile dysfunction
Burnett AL, et al. : J Urol.181 : 245-51,2009

糖尿病を合併するED患者にシルデナフィルを連日投与したところ、血管内皮機能が高まり、酸化ストレスマーカーが減少した。

  • 癌、生活習慣病、認知症に酸化ストレスが関わっている。PDE5阻害薬にはED治療に加えて画期的な作用が見出されつつある。泌尿器と酸化ストレスの関係を研究する場として抗加齢医学会の中に新しく泌尿器抗加齢研究会ができた。


(24)テストステロン補充療法のPSAへの影響
Prostate-specific antigen changes and prostate cancer in hypogonadal men treated with testosterone replacement therapy
Coward RM, et al. : BJU Int.103 : 1179-83,2009

加齢男性性腺機能低下症(LOH)患者にテストステロン補充療法をしても、5年間のフォローにおいてPSA値は変化しなかった。また、前立腺癌の発生率も上昇しなかった。一方、性機能やQOLは改善し、総コレステロール値の低下がみられた。

  • LOH患者へのホルモン補充による前立腺癌の発症は当面は心配しなくてよいだろう。J Urol. 181: 972-9, 2009に局在前立腺癌治療後のLOHにテストステロン補充をすることの考察がされており、前立腺癌とテストステロンの関係がすっきりわかる。


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