Issue02
Current View on Urology Issue2
最近の学術誌から

■前立腺癌

(1) 限局性前立腺癌管理ガイドライン、2007年改訂版
Guideline for the Management of Clinically Localized Prostate Cancer: 2007 Update
Thompson I, et al.: J Urol. 177: 2106-2131, 2007

1995 年に出版されたAmerican Urological Association(AUA)の限局性前立腺癌治療ガイドラインの改訂版で、最新の知見に基づく管理指針が示されている。全文をAUA のホームページ(http://www.auanet.org/guidelines/)でダウンロード可能である。

  • このガイドラインの特徴はいわゆるD’Amico のリスク分類に応じた治療戦略を提唱していることにあります。特に致死的な癌を検出するバイオマーカーの必要性が強調されています。


(2) 血清EPCA-2は前立腺癌のバイオマーカーとして有用
EPCA-2: A Highly Specific Serum Marker for Prostate Cancer
Leman ES, et al.: Urology. 69: 714-720, 2007

血清EPCA(early prostate cancer antigen)-2は、前立腺肥大症(BPH)に対する特異度が高く、前立腺癌に対する感度が高かった。PSA よりも有用なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。

  • この論文は1 月9 日に投稿されて27 日に受理されています。内容に少しあやしいところもありますが、商業化が進んでいくのでしょう。癌の悪性度を反映できるかは今後の課題です。


(3) 50 歳未満例の前立腺癌診断におけるPSA およびPSA velocityの適切なカットオフ値
Prostate-Specific Antigen(PSA)and PSA Velocity for Prostate Cancer Detection in Men Aged <50 Years
Sun L, et al.: BJU Int. 99: 753-757, 2007

ROC 曲線を用いた検討の結果、50 歳未満男性の前立腺癌診断のカットオフ値は、PSA が2.3 ng/mL、PSA velocityが0.60 ng/mL/年が適切であることが示唆された。

  • 日本でも40 歳代の患者が増えてきています。もはや従来のグレーゾーンは存在しなくなりました。


(4) 根治的前立腺全摘除術後に再発した前立腺癌に対する救済放射線療法の効果予測
Predicting the Outcome of Salvage Radiation Therapy for Recurrent Prostate Cancer After Radical Prostatectomy
Stephenson AJ, et al.: J Clin Oncol. 25: 2035-2041, 2007

根治的前立腺癌全摘除術施行後にPSA 再発を示した前立腺癌に救済放射線療法(SRT)を施行したところ、6年以内に再発を示さなかった例は32 %であった。PSA が
0.50 ng/mL 以下の例にSRT を単独で施行した場合、6 年間の無病率は48%であった。

  • 日本では内分泌療法が併用されることが多いため、より成績はよいと思われますが、前立腺全摘後にPSA再発があると60%に転移が生じることは常に頭に入れておいたほうがよいでしょう。


(5) ネオアジュバントホルモン療法は根治的前立腺全摘除術後の神経内分泌癌の細胞数に影響しない
Frequency and Number of Neuroendocrine Tumor Cells in Prostate Cancer: No Difference Between Radical Prostatectomy Specimens From Patients With and Without Neoadjuvant Hormonal Therapy
Shimizu S, et al.: Prostate. 67: 645-652, 2007

根治的前立腺全摘除術により得られた標本における神経内分泌癌細胞数には、ネオアジュバントホルモン療法施行の有無による差異が認められなかった。

  • 神経内分泌癌細胞は治療前から癌病巣内に存在し、短期的な内分泌療法では神経内分泌癌への移行はあまりみられない、という内容です。しかし、例えば骨転移巣など異なるsoil においてはどうでしょうか?


(6) 根治的前立腺全摘除術後の性機能と尿禁制機能回復に対する腓腹神経移植の長期的影響
Impact of Unilateral Sural Nerve Graft on Recovery of Potency and Continence Following Radical Prostatectomy: 3- Year Longitudinal Study
Namiki S, et al.: J Urol. 178: 212-216, 2007

根治的前立腺全摘除術後3 年間の性機能と尿禁制機能を両側神経温存(BNS)、一側神経温存(UNS)およびUNS+SNGの3群で比較した。BNS群が排尿機能、性機能ともに有意に良好なQOLを示した。

  • 日本発の優れた論文です。全摘標本の病理stageのほとんどはT2 ですが、より詳しい分類があると参考になります。神経温存のためには生検でもfar lateral を採るなど工夫がされているかも訊ねてみたいところです。


(7) 根治的前立腺全摘除術後の排尿機能回復と術前の前立腺容積の関連
Recovery of Urinary Continence Following Radical Prostatectomy: The Impact of Prostate Volume ?Analysis of Data From the CaPSURE? Database
Konety BR, et al.: J Urol. 177: 1423-1426, 2007

根治的前立腺全摘除術後2 年以内の排尿機能回復は、術前前立腺容積が50 cc未満例に比べ50 cc以上例で遅かった。

  • 14,000例を対象としたCaPSUREのデータの解析です。2年後には排尿機能に差は見られません。神経温存のデータはありません。大きい前立腺では、両側神経温存できれば排尿機能も良好となるのでしょうか?


(8) 前立腺癌患者の対症療法の満足度に影響する因子
Age, Health, and Education Determine Supportive Care Needs of Men Younger Than 70 Years With Prostate Cancer
Smith DP, et al.: J Clin Oncol. 25: 2560-2566, 2007

根治療法が行われることが多い70 歳未満の前立腺癌新規患者では、患者の心理面と性機能に配慮した対応が求められる。特に年齢、社会経済的地位が低いほど、治療全般に対する満足度が低くなる。

  • 癌と診断されたことによる将来への不安と治療による性機能の低下が患者満足度を損なうことになります。じっくりと十分に説明し、励まし、あるいは将来への備えを一緒に考えていくことですね。医療者だけでなく、そういう機能を持つサービスが登場する余地はあるでしょう。


(9) 限局性前立腺癌患者QOL評価尺度日本語版の実証的検討
Health Related Quality of Life in Japanese Men With Localized Prostate Cancer Treated With Current Multiple Modalities Assessed by a Newly Developed Japanese Version of the Expanded Prostate Cancer Index Composite
Kakehi Y, et al.: J Urol. 177: 1856-1861, 2007

最近開発された、限局性前立腺癌患者特異的QOL 評価尺度Expanded Prostate Cancer Index Composite(EPIC)日本語版の信頼性と妥当性を、日本人患者の健康関連QOL(HRQOL)を、実際に評価することにより検討した。その結果EPIC 日本語版は、HRQOL 評価尺度として妥当であることが明らかになった。

  • 限局性前立腺癌に特化したQOL score が日本語で実証されました。EPICは排尿症状を評価できること、ホルモン療法の効果とそれによる負担感を測定できることが特徴です。以下のURLから入手できます。[http://www.i-hope.jp/tool/epic.html]


(10) 前立腺癌アンドロゲン抑制療法と致死的心筋梗塞発症の関連
Influence of Androgen Suppression Therapy for Prostate Cancer on the Frequency and Timing of Fatal Myocardial Infarctions
D’Amico AV, et al.: J Clin Oncol. 25: 2420-2425, 2007

放射線治療後6 ヵ月間前立腺癌アンドロゲン抑制療法(AST)を施行された65 歳以上の患者では、ASTを施行されていない患者に比べ、致死的心筋梗塞発症に至るまでの期間が有意に短かった。65 歳未満の患者では有意差は検出されなかった。

  • テストステロン減少が冠動脈疾患のリスクであることが知られています。しかしこの論文の「味噌」は、放射線治療にもあるように思われます。放射線治療そのものの体への影響はいったい局所にとどまるのでしょうか?あまり話題になっていませんが。[Monga U, et al.: Radiat Oncol Investig. 7:178-185, 1999]


(11) マルチビタミン摂取と前立腺癌発症リスク
Multivitamin Use and Risk of Prostate Cancer in the National Institutes of Health─AARP Diet and Health Study
Lawson KA, et al.: J Natl Cancer Inst. 99: 754-764, 2007

30 万人の調査でマルチビタミンの通常量摂取と限局性前立腺癌発症の間に相関は認められなかった。しかし、マルチビタミン摂取が7 回/週以上の多量摂取例では、非摂取例に比べ進行前立腺癌、致死的前立腺癌発症の相対リスクが有意に高かった。

  • 過ぎたるは及ばざるが如し、という健康オタクに見せたい論文ですが、なぜビタミンE の大量摂取が悪性度の高い癌につながるのかは興味深いところですね。


(12) ビタミンEの前立腺癌進行抑制効果
Vitamin E Succinate Inhibits NF-κB and Prevents the Development of a Metastatic Phenotype in Prostate Cancer Cells: Implications for Chemoprevention
Crispen PL, et al.: Prostate. 67: 582-590, 2007

ビタミンE は、転写因子NF-κB 活性を阻害することにより、炎症性サイトカインを減少させ、前立腺癌の転移を抑制することが、ヒト前立腺癌培養細胞株を用いた研究により示唆された。

  • 一方、細胞実験ではこういうデータも出ています。ビタミンの作用も複雑です。


(13) ゾレドロン酸がゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストによる骨密度低下を抑制
Randomized Controlled Trial of Annual Zoledronic Acid to Prevent Gonadotropin-Releasing Hormone Agonist-Induced Bone Loss in Men with Prostate Cancer
Michaelson MD, et al.: J Clin Oncol. 25: 1038-1042, 2007

ゾレドロン酸の1 回投与により、GnRHアゴニスト投与の影響による前立腺癌患者の骨密度低下が、12ヵ月間有意に抑制された。

  • 前立腺癌の骨転移は比較的大きい骨に起こるため骨折は致命的な結果になりがちです。内分泌治療患者には骨密度測定をスケジュールにいれておきましょう。ゾレドロン酸の治療効果判定には血清N-telopeptideが有効です。


(14) 間欠的ホルモン療法の前立腺癌に対する有用性
International Study into the Use of Intermittent Hormone Therapy in the Treatment of Carcinoma of the Prostate: A Meta-Analysis of 1446 Patients
Shaw GL, et al.: BJU Int. 99: 1056-1065, 2007

前立腺癌に対する間欠的ホルモン療法は有用かつ安全である。転帰に影響を及ぼす要因には、治療前PSA 値、PSA最低値、治療選択、治療期間がある。

  • 間欠的ホルモン療法のメタアナリシスの論文です。メタアナリシスの論文は読みにくいものですね。間欠療法のメリットを受けるのはむしろ限局癌あるいは術後PSA 再発へのアジュバントでしょうか。PSA が測定限界まで低下し、落ち着いている場合には単に副作用や性機能だけの観点でなく、制癌という意味でも意義があるかもしれません。進行しているランダム化比較試験(RCT)の結果が期待されます。


■前立腺肥大症(BPH)/下部尿路症状(LUTS)

(15) BPH新規発症の危険因子
Race/Ethnicity, Obesity, Health Related Behaviors and the Risk of Symptomatic Benign Prostatic Hyperplasia: Results From the Prostate Cancer Prevention Trial
Kristal AR, et al.: J Urol. 177: 1395-1400, 2007

大規模臨床試験Prostate Cancer Prevention Trial(PCPT)のプラセボ群に登録例におけるBPH 新規発症の危険因子は、黒人、ヒスパニック系、肥満(特に内臓肥満)であった。BPHの治療と予防に、減量が効果的である可能性が示唆された。

  • 肥満が夜間頻尿の危険因子である論文もあります。[Tikkinen KA, et al.: Am J Epidemiol. 163:1003-1011, 2006.]


(16) フィナステリドの前立腺上皮内腫瘍発症抑制効果
Finasteride Decreases the Risk of Prostatic Intraepithelial Neoplasia
Thompson IM, et al.: J Urol. 178: 107-110, 2007

PCPT 試験において、フィナステリドは、悪性度の高い前立腺上皮内腫瘍(PIN)の発症をプラセボに比べ有意に抑制した。

  • PCPT 試験は歴史的な大臨床試験となりました。2007 年のAUA でWalsh は、フィナステリドは低悪性度癌を治療できるが、悪性度の高い癌は治療できないと言っています。
    「AUA 2007-Plenary Session: Point-Counterpoint;“ PCPT Trial: Why is No one Using Finasteride?”」webで読めます。


(17) BPHに対する薬物療法の長期効果
The Long-Term Outcome of Medical Therapy for BPH
Madersbacher S, et al.: Eur Urol. 51: 1522-1533, 2007

α-遮断薬は症状を迅速に改善したが、急性尿閉や手術施行の危険を低下させるものではなかった。5α-還元酵素阻害薬のBPH 予防効果は認められたが、高コストの問題がある。α-遮断薬と5α-還元酵素阻害薬の併用は、中等度以上で進行度の高い症例に使用すべきである。

  • 急性尿閉の危険因子にはPSA 高値、炎症の存在、前立腺の大きさがあげられます。[Khastgir J, et al.: Nature Clinical Practice Urology. 4:422-431, 2007] このような症例ではアンチアンドロゲンが有用でしょう。


(18) 血中性ホルモン濃度とLUTS発症の相関
Serum Sex Steroid Hormones and Lower Urinary Tract Symptoms in Third National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES掘法
Rohrman S, et al.: Urology.69: 708-713, 2007

エストラジオール高値およびジヒドロテストステロン(DHT)の代謝産物であるグルクロン酸アンドロステンジオン高値は、LUTS発症の危険因子である。

  • 血中グルクロン酸アンドロステンジオン値は5α-還元酵素の活性を反映しています。血中グルクロン酸アンドロステンジオン値は前立腺癌の危険因子とはなっていません。[Wiren S, et al.: Prostate. 67:1230-1237, 2007.]


■尿失禁

(19) ドイツにおける過活動膀胱(OAB)の直接コスト
The Economic Costs of Overactive Bladder in Germany
Klotz T, et al.: Eur Urol. 51: 1654-1663, 2007

ドイツにおけるOAB の直接コストは、40 億ユーロ≒ 6,400億円に達する。この金額は認知症や糖尿病の医療コストに匹敵する。

  • すごいデータですが、よく読むと老人ホームの費用が半分であり薬剤費は130 億円で日本とさして違いません。しかし、このようなデータを社会へ絶えず発信していく必要があるでしょう。


(20) 腹圧性尿失禁女性への自己筋原細胞および線維芽細胞注入の効果
Autologous Myoblasts and Fibroblasts versus Collagen for Treatment of Stress Urinary Incontinence in Women: A Randomized Controlled Trial
Strasser H, et al.: Lancet. 369: 2179-2186, 2007

腹圧性尿失禁の女性42 人に、経尿道的に自己筋原細胞および線維芽細胞を注入したところ、38 人において尿禁制が完全に回復した。

  • GMP レベルでの細胞調製と技術料で医療コストは相当高いと思われますが、再生医学の成功例の1 つです。尿道括約筋が機能的にも再生されているのには驚かされます。


(21) A型ボツリヌス毒素の排尿筋過活動に対する効果
Efficacy of Botulinum Toxin-A for Treating Idiopathic Detrusor Overactivity: Results from a Single Center, Randomized, Double-Blind, Placebo Controlled Trial
Sahai A, et al.: J Urol. 177: 2231-2236, 2007

抗コリン薬治療抵抗性の排尿筋過活動患者にA 型ボツリヌストキシン(BTX-A)を注入したところ、プラセボに比べ最大膀胱容積が有意に増加した。

  • BTX-A の効果が重症のOAB できちんと示された論文です。ということはやはりアセチルコリンの作用を抑えることがOABの治療となるのですね。保険適応が望まれます。


■その他

(22) 男性不妊症患者の男性ホルモン濃度測定
Bioavailable Testosterone Should be Used for the Determination of Androgen Levels in Infertile Men
Ashok S and Sigman M: J Urol. 177: 1443-1446, 2007

男性不妊患者診断において男性ホルモン濃度を測定する際には、生物活性のあるテストステロン(bioavailable T)濃度を用いるべきである。また、BMI は総テストステロン濃度およびbioavailable T 濃度との間に負の相関を示した。

  • テストステロンはSHBG というタンパクと結合しているため、厳密には活性分画であるbioavailable T を測定する必要がありますが、それはさておき泌尿器科医はもう少しテストステロン値を測ってみるべきでしょう。


(23) メタボリックシンドロームは勃起障害の危険因子である
Is the Metabolic Syndrome an Independent Risk Factor for Erectile Dysfunction?
Heider S, et al.: J Urol. 177: 651-654, 2007

メタボリックシンドローム(メタボ)およびウエスト/ヒップ比の増大は、IIEF-5スコアの独立した悪化要因である。

  • メタボは今や世界的な伝染病といわれています。メタボの人は友達もメタボにするらしいですね。[Christakis NA, et al.: N Engl J Med. 357:370-379, 2007]メタボは動脈硬化を促進しED の原因となりますが、メタボは交感神経系を活性化するからED になるという話もあります。[Straznicky NE, et al.: J Clin Endocrinol Metab. 90:5998-6005, 2005] α-遮断薬もEDによいという論文もあります。ED の克服には副交感神経系の癒しも大事ですね。
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