Knapsack

哀しみからの再生 補陀落幻影

執筆 : 
Shigeo Horie 2011-3-26 0:00
補陀落幻影

喪失することによる哀しみの状況は他人にも了解できるが、
哀しみの大きさ、深さは誰にもわからない。

哀しみは、心の中で(医学的にいえば脳の扁桃体だ)、
普段は蓋をされた箱の中におさまっている。

日常は、その箱のその存在を忘れさせてくれるが、
何かの折に箱は存在を主張する。
箱の蓋を取り、中にある哀しみの嵩を測ることは、
恐ろしいことでもあるが、
自分が生きている証しを確認する作業でもある。

戦争でのトラウマを抱えた主人公と、戦災で盲目になった友人。
老境を迎えた二人に、笙をモチーフに進む静かな物語である。
精緻でありながら情感をたたえた筆致、静謐な世界に、
壮烈な哀しみが表現されていく。

そして哀しみからの再生。

ストーリーの展開よりも、
場面場面が文中にある俳句のようにむしろ映像化されていく。

タイトルの影という言葉が心に残る。
著者は墨絵画家というのもユニークだ。

京都うた紀行

執筆 : 
Shigeo Horie 2011-1-16 19:40
京都が好きである。

名所旧跡もさることながら、
なんということない路地や通りを歩くのが好きだ。
また、地名の響き「若王子」なんて
どうってことないところでもなんだか素敵に思えてくる。
ふとしたところに生活に対する高い感性を発見することができる。

頼んであった「京都うた紀行」(京都新聞出版センター)が来た。
ともに歌人でご夫婦である、河野裕子さんと永田和宏さんが、
和歌の舞台となった地名やお寺などの「歌枕」を二人でおとずれ、
歌やその場所への想いを交替で書いていく、
という新聞の連載が本になったもの。

永田和宏教授は著名な分子生物学者で
20年くらい前にアメリカの研究会でお目にかかったことがある。
当時門外漢の若僧の私の言うことにも耳を傾けてくれ、
研究材料まで送っていただいたことを思い出す。
(残念ながら研究はものにならなかったが…)
河野裕子さんについては現代を代表する歌人であるということ、
乳がんで壮絶な闘病をされなくなったことくらいは存じ上げていた。

京都の歌枕を訪れ、現代の和歌を紹介する。
男歌、女歌、情感と理性、といった対比を
期待された企画であったのかもしれない。
もっともいわゆるおしどり夫婦というのは、
事情をよく知っている方やファンはさておき、
門外漢には何となく居心地が悪いものだ。
しかし河野さんの乳がんが再発・転移をして、
生が限られてきたことから、この企画は(おそらく)
全く別の意味を持つこととなった。
50の歌枕が、まさに一期一会の場として選ばれ、赴き、
そしてその場を去るということ。
出会いと別れを繰り返す連載となった。

永田さんからは「記憶」というモチーフが感じられる。
これまで共に過ごした時間の記憶を想起し、
そして今この瞬間を記憶しようという強い意思が感じられる。
人生2度と行かない場所なんて本来数限りないはずだけれども、
人生のパートナーが不在になることを予期して、
2度と行けないところを訪れていくことは強靭な精神力を必要とする。
いや、むしろこの旅がいつか終わってしまうと思うことこそ
とても辛かっただろうと思う。

河野さんの文章には生が限られている中で、
現在の刹那を慈しむ想いが溢れている。
現在を見るまなざしは、
むしろ永田さんよりも理知的とでもいえるかもしれない。
一瞬たりとも時間をゆるがせにしない、
研ぎ澄まされた美しさと自分の周りの世界への温かいまなざしがある。
ああ、現在を生きるとはこういうことか、と感じた。

男は過去と未来に生き、女は現在に生きる。

「歌のことばは時間と空間を越えて残る」(河野裕子)

この想いこそ、現在に生きることだったのだろう。

京都うた紀行―近現代の歌枕を訪ねて
永田 和宏、河野 裕子著(京都新聞社)
スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則

プレゼンは、医学や医療の場で毎日行われている。
簡潔に情報量を多く、というのがこれまで受けたプレゼンのトレーニングの要点である。
もっとも考えてみるとこれは閉じた世界で、しかも情報の流れが研修医から指導医へ、といった一方向で閉じた世界にのみ通用するのかもしれない。
こういうトレーニングを受けている医療者が、医学の学会につきものの市民公開講座で話すと、どう受け止められているか、YouTube に出してみないと本当の評価は難しいかもしれない。

ジョブスは、今の時代を形作っている一人。すばらしい才能と集中力がMacとipod, ipad, iTuneを生み、またCG映画も生み出してきた。彼はまたすばらしいpresentatorである。
有名なstanford大学入学式でのスピーチ

何度聞いても感動する。彼の人柄、人生、生きがいがあふれたスピーチだ。
一方、iPhoneのプレゼン、なんと言ってもすばらしい。

もちろんこれはマーケティングであり、医療とは本質的に異なる、という意見もあるだろう。
しかし人生をかけた仕事をプレゼンするときには、その内容を最大限伝えたい。
本書はジョブスのプレゼンを分析し、心をつかむinteractiveなプレゼンとは何か、を教えてくれえる。こういったプレゼンはTED.comでも見ることができる。
パワポ進化論ともいえるだろう。

漢方で劇的に変わるがん治療

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-9-26 15:00
漢方で劇的に変わるがん治療
星野 惠津夫 (著)

漢方というと、慢性的でよい(西洋)薬がないときとか、症状が起こる原因が分からないときに、漢方でもだしておきましょう、と医師に処方されるイメージがあるかもしれない。ひとつの漢方薬には複数の生薬が含まれていることから、薬とは一つの標的に対応すべし、という1対1対応の教育を受けてきた医師には受け入れにくい傾向がある。事実漢方と聞くだけで激しく拒否反応を示す医師も特に外科医に多い。

なるほど漢方は救急医療にはまったく登場しない(例外に、足のこむらがえりがあるが、これは救急というほどでもないだろう、これは漢方がよく効く) 漢方には時間が必要だ、そして[生活習慣病]は病気になるまでもなってからも時間のファクターを見落とせない。

最近、がんも生活習慣病であることが分かってきた。生活習慣病は運動とか摂取カロリーのみが注目されているが、むしろ[酸化ストレス]とどう戦うかが、予防の主眼となっている。一方がんになってからこそ、酸化ストレスを消去することがさらに大事になる。がんに対する民間療法に共通することは徹底した生野菜と果物のジュースを飲むことで酸化ストレスを減らすことだが、漢方にも強い抗酸化作用がある。

癌研有明病院の星野恵津夫先生は、消化器の専門医であると同時に漢方専門医で、がんにこそ漢方を実践されてきた。癌研病院は、以前は外科手術の総本山として[切って切って切りまくる]がん治療を行ってきたが、星野先生がそのなかに漢方治療を定着させた功績はすばらしい。

僕の泌尿器科でも、ほとんどのかたに漢方薬をおすすめしている。西洋薬のように、無作為2重盲検臨床試験をすることは難しいが、統計的には再発や転移の可能性の高いかたが漢方を服用して何人も元気でおられることも事実。一万人のエビデンスも大事だが、その人1人をまず助けたいということから医療は始まる。

そういう想いを感じることができる1冊です。

The Language of Life

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-7-17 23:00
The Language of Life: DNA and the Revolution in Personalized Medicine Francis S. Collins

ヒトgenomeが解読されても、画期的な創薬がなされたのだろうか?
genomeはまず入り口で、proteome, transcriptome, などさまざまな分子複合体の解析が進んでいる。
とはいえ、究極の個人情報であるゲノムがどう医学の進歩に関係するのか、底抜けに明るい夢を表わしているのが本書である。
著者のFrancis S. Collinsはゲノムプロジェクトの中心で現在NIHの長官。
実はオバマ大統領もゲノム医学になみなみならぬ可能性を見抜いていた。
もちろん、ビジネスとしての側面もあるが。

本書の内容はきわめて簡単で、DNA医学の進歩が疾患リスクを呈示し、また最適の治療薬を最適の治療量で服薬することで、効果を最大にできる、というものである。
たとえば、Googleが出資していることで有名な23andme など、DNA検査のサイトも掲載されており、現在のDNA医学が偏りなく、比較的平易な英語で解説されているので、医学生にも良い教科書と思われる。
実際に、乳がんでは、乳がんが作っているたんぱく質の種類により既に抗がん剤の選択が定まっている。
いわば細菌に対して感受性のある抗生物質を選ぶようなもので、この20年のDNA医学は実際に医療に応用されている。
今年から、世界で最も権威がある医学雑誌のNew England Journal of Medicineでもこのgenome medicineの連載が不定期に始まっている。

さて、特にアメリカではこのDNAとキリスト教的な神との整合性が問題になる。
進化論がにわかには受け入れられない部分もある国。
Collinsは、The Language of Godという本でこの問題にある程度の見通しをつけようとしている。
DNAを哲学でどう考えるのか、われわれには考えつかないが。

フォーカル・ポイント

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-1-11 12:36
フォーカル・ポイント
ブライアン・トレーシー (著)

自己啓発本は、なんか胡散臭いし、またそうがんばったり、励まされる年齢でもないだろうと、敬遠してきたけれども、
たまたまブライアン・トレーシーのblog
を読んだことから、この本も読んでみた。

自分の人生を責任を持って生きていくために、自分の意思を言語化し、集中すること。

If you cannot write it down clearly and specifically on a piece of paper, then it means that you are not really clear about it yourself. Perhaps you don’t even want it. What is worse, it may be that you are afraid that you may not attain it. Nonetheless, a goal that is written down is merely a fantasy or a wish. A goal that is clearly written and described on a piece of paper takes on a power of its own, it is now something concrete that you can touch and feel and work with.

簡単なメッセージであるけれども、これまでさほど意識せずに目の前に起こることに対応してきた自分にとっては
ある意味衝撃的であった。
もっと早くこの本を読んでおきたかったとも正直思ったけれど、出会いも人生、
キットこの本を今必要としたのだろうと思っている。

「5年後の自分をイメージする」のは容易でない。けれども言語化しないことにははじまらない。
身体機能の衰えは避けようがないだろうが.. とりあえず早起きからはじめてみる!

集中することで共通するのが、Steve JobsのStanford 大学入学式でのスピーチ

彼の驚くべき人生そして、好きなことを貫いてきた姿勢に深く感動した。
ぜひ若い人に見てほしい。

Anticancer: A New Way of Life

執筆 : 
Shigeo Horie 2009-5-26 0:10
Anticancer, A New Way of Life
MD, PhD, David Servan-Schreiber (著)

これまでがんについて書かれた本で、もっとも優れた本ではないだろうか。

がんになったときどう向き合うか、がんにかかり、がんを克服されたかたの体験談は多い。
特に医師が患者、あるいは患者の家族の経験をすることで、医療を見る眼が変わってくる、というのはよくある話である。
患者となった医師ほど、心細いものはないんじゃないかと思う。
医師ゆえに、病気についてある程度の知識は得ることができる。
しかし、その病気がどういうものなのか、どういう経過をたどるのか、ディテールがわからないと最悪の予想しかできない。
というわけで医者が患者となると、ろくなことがない、といわれている。

この本は精神科学の寵児であった著者が突然きわめて悪性の脳腫瘍の宣告を受け、
手術、抗がん剤の厳しい治療を受け、また自分のキャリアや家族との出会い、別れを経験する中で、
徹底的に現代の科学で、がんによい、とされていることを実践していく話である。

著者の個人的な経験自体、十分に重く、また精神科医としての内省も深いのだが、
それだけでなく、がんは交通事故ではない。
心筋梗塞や脳梗塞と同じように、日常から起きる生活習慣病であり、それゆえに、がんとわかってからでも対応が可能であること、であれば予防もできることを、きわめて科学的に著している。
Anticancerというタイトルが適切かはわからないが、
これまで眼にしたさまざまながんの本のなかで、最も説得力がある。
おそらく「がん」に対するリテラシーを持つのにもっとも役に立つ本ではないだろうか。

内容の要素は3つある。

食事がきわめて重要だということ。現在われわれが口にしているものがわれわれの健康を規定している。「沈黙の春」「複合汚染」の時代よりもはるかに、高度に工業化されている食品。どうしたら自分の健康を守れるのか。

がんとは何か。がんの原因は遺伝子異常であるが、炎症と酸化ストレスによって起こる。実際このプロセスはほかの生活習慣病となんら変わらない。
生物が炎症を抑える仕組みに基づき、どのような食事を取るべきか、多くの文献を網羅し、きわめて緻密な論理構成となっている。

メンタルが健康に影響を及ぼすこと、漠然としていた内容が科学的にも証明されつつある。
特に交感神経の興奮をどうやって鎮めるか。呼吸法、ペット、…

いまのがん治療にかけているこの「がんリテラシー」の啓発。
ぜひ日本でもわかりやすいかたちで実践したいと考えている。

へうげもの 1-8服

執筆 : 
Shigeo Horie 2009-3-9 9:01
へうげもの―TEA FOR UNIVERSE,TEA FOR LIFE (1服)
山田 芳裕 (著)

 
 「ホルモン力が人生を変える」で取り上げた茶の湯と男性ホルモンの世界。女子高の茶道部と、戦国武将は180度遠い関係のように見えるけど、そもそも茶の湯は誕生以来ホルモン力満載でないかと考えていた。

 この「へうげもの」をほんの最近紹介されて、自分の頭に描いていたこの茶の湯の世界が100%以上ビジュアル化されていることに感動!「へうげもの」は数寄者たらんとした信長の家臣古田左介、のちの古田織部のビルデュングスロマン。信長、秀吉、光秀、利休の壮絶な生き方の中に、戦に不得意で、物欲が高く、どこかセコイ主人公であるが、テストステロン社会の中で己を高めていこうとユーモラスに、且つ、したたかに生きている。支配、蒐集、デザイン、自己表現、なわばり、といった男性ホルモンのkey wordがこれでもか、これでもかと登場してくる。古田織部は武将でありながら、茶人として、また光悦のようなデザイナーとして生きたユニークな存在で、織部焼は大胆で無骨な形の茶碗ながらデザインの妙が特徴。へうげものは思い切った歴史解釈に加え、独特の画調が楽しめる。利休も顔が長い!

 たかが茶碗であり、茶入れなのだがなぜそこまでに戦国武将はこだわったのか。究極の茶碗といわれると、世田谷の静嘉堂文庫美術館の国宝「曜変天目茶碗(稲葉天目)」がある。

 1個の茶碗が宇宙を表現している驚きを体験できる。
現在の茶の湯はお作法になっている部分が多いのだろうけど、男同士でホルモン茶を楽しむのも本来なのかも。

 「へうげもの」つながりだけど、「ホルモン力」を読まれた方から今年の直木賞 山本兼一さんの「利休にたずねよ」を頂戴する。

 いつ読むか、楽しみな一冊。

 へうげもの公式ブログhttp://hyouge.exblog.jp/

コミュニティー 安全と自由の戦場

執筆 : 
Shigeo Horie 2009-3-2 12:57
ココミュニティ 安全と自由の戦場 (単行本)
ジグムント バウマン (著), 奥井 智之 (翻訳)

 アメリカで医師をやっていたときに、グランドファーザーズルール (grandfather's rule)があるのを知った。アメリカは超専門医志向で、たとえば泌尿器科医であってもトレーニングを受けたことがない手術をすることは通常難しい。新しく病院と契約をするときには自分が行う診療行為や手術の種類は細かく決定されるのが通常だ。まして外科医がお産に立ち会うとか、泌尿器科医が血管造影(アンギオ)をやったりというのはありえないが、モチロン例外はある。専門化が進む前からやっていればそれは認められるというのがグランドファーザーズルールである。
 
 グランドファーザーズルールのもとでは新しい技術はできないが自分が習熟している技術はできる。僕は救急で大腿骨折の治療や、頭の出血の治療もやっていたから、グランドファーザーズルールでは、泌尿器科医であることに加えて救急もできる。人間ヒトよりもできることが多いのはうれしいもの。このグランドファーザーズルール、昔は医者の権利・特典であると考えていたけれど、今ではそれはその医師を訪れる患者の権利であるのではないかと気がついた。医療は地域とそこにいる医師、パラメディカル、医療施設により、状況はみな違うから、どこも同じように、ということはありえない。どこも同じ品揃えを目指したグランドホテル的な病院が経営不振や医師不足から、多くの地域で立ち行かなくなってしまっている。

 「赤ひげ」はいわばグランドファーザー的な医師のもとに派遣された若い専門医指向の医師が成長していく話だが、「Dr.コトー」も若月俊一の「村で病気とたたかう」も、共通するのはコミュニティーで必要とされる医師の話である。
 
 医師、牧師、教師といった、いわば「聖職者」は皮肉な言い方をすれば、生産的で健康的な部分でなく、社会全般から見た、ある意味非日常に関わる上で、「よりによってご苦労さんなこと」ということから「師」とされている部分もあるのではないかと思っている。しかし非日常であってもコミュニティーの中に存在していたことも確かだ。

 今、このコミュニティーが社会の中から消えていきつつある。

 ジグムント・バウマンの「コミュニティー 安全と自由の戦場」は医療崩壊と呼ばれる現在の医療状況の理解にひとつの解釈を与えてくれる。

 コミュニティーは「自然で暗黙な理解を共有する」かぎりにおいて温かく居心地の良い場所ではあるが、本質的に自由は制限されている。経済や文化のグローバル化はこのコミュニティーを急速に破壊していった。駅前商店街に代表される地域コミュニティーも、また医師のコミュニティーであった大学医局も同様である。現代は自由を極大化すべく、コミュニティを次々と解体した結果、世界的に資本主義が覆った。世界中のduty freeでGodivaとGucciが氾濫している。一方、権力は保護介入型から、人ではなく事物で管理する「撤退型」へと変質しつつあり、誰がコミュニティのセーフティーネットを提供するのかという部分で空洞が広がりつつある。そして資本主義が崩壊しつつある現在、グローバル経済のマイナスが世界中に噴出してきた。 医師もコミュニティーから逃げ出し、多くの医師は冷戦中のソ連の知識人のようにひっそりと黙して語らない。

 そしてコミュニティーはいったん壊れると二度と作り出すことはできない。

 赤ひげも、Dr.コトーも、失われたコミュニティーとそこに存在する医師の安心感に安堵する。

 では崩壊したコミュニティーから何も生まれないのか?
バウマンは意識的なアイデンティティーの形成を取り上げている。医師の研修プログラムを細かく規定し、専門医制度を厳密化していくことでアイデンティティーを醸成していく方向へ進んでいることも確かだ。しかしこのアイデンティティーは、自己主張力はあるものの反発も強く受ける。いわば自分自身をエスニックマイノリティーと規定することにもつながる。

 エスニックマイノリティーだから、医師にはある種のアファーマティブアクションが必要か?難しい質問である。
 
 佐藤優は「テロリズムの罠」において、グローバル社会の新自由主義により国家が弱体化してコミュニティーが消えうせ、セーフティーネットもない漂流状況において経済苦境が生じると、手っ取り早い解決策としてのファシズムの到来を恐れている。

 医師もまたファシズムに陥ってはいけない。
シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ(単行本)
ジョセフ・ジャウォースキー (著), 金井壽宏 (監修), 野津智子 (翻訳)

シンクロニシティ(英語:Synchronicity)とは複数の出来事が重要な意味を持って、
偶然に同時に起こるというユングの概念。日本語で共時性というそうだ。
因果関係がないできごとは確率論的に起こるはず、
だからこのシンクロニシティは科学では説明できない
超常現象となってしまう。
しかし誰でも
「不思議としか思えない出会いや出来事が重なること」を経験する。

この本はいわゆるリーダーシップ本ではなく、
「自分が一生懸命願うと、それを後押ししてくれるような
偶然の出来事が起こっていき、想いが成就していく」
ことを主題にしている。

著名な弁護士であった著者が、自分の華やかな世界を離れて、
人間形成のセミナーを開発していく過程の中で、
思いがけない、しかし振り返れば必然と思えるひととの出会いを得、
そして困難を乗り越えて目標を達成していく、
その人生の旅を具体的にかつ哲学的に語っている。

「一心に取り組むこと…になると、自分の周囲に流れが生じ、
さまざまなことが自然に起こるようになる。」
サクセスストーリーでないし、ノウハウを書いたものでもない。
むしろきわめて哲学的な本だが、
何かを追いかけることのすばらしさが伝わる本だと思う。
そして、人生は後半に入ってからますます面白い、
と勇気づけてくれる。

この本を通じて、多くの古典や書物を知ることができた。
パウロ・コエーリョの「アルケミスト」にもここで出会った。
挫けたり、がっかりしたり、
「今は、きっと人生の踊り場にいるんだな..
でもこの上の階段をあがっていくのはしんどい」
と思うときに強い支えになってくれると思う。

それから、このシンクロニシティは
医者と患者にもあてはまるといいな、と思う。
出会いは偶然だけど、必然に思えるような
患者と医者の旅ができれば、医療の問題の多くは解決していく。
一緒に旅をするメンバーだから、心を通わせるには
両者に気配りや隠し事がないことが大事だ。
がんのように長い旅では、旅の終わりに着くこともさることながら、
お互いの出会いがシンクロニシティと思える気持ちが大きいな、
と感じた。
そして「深く関わり、逃げないこと」が「未来を拓く」。
型どおりのインフォームド・コンセントとが
医療ではないことを気づかせてくれる。

最後に
僕は学生時代ボート部に所属していたけど、
14章で、同じ志を持つ人間でチームをつくることができれば、
「ボート競技で八本のオールが、
すべて完全にぴたりとあって水をかくことで力強い前進を感じる」、
この感覚を得ることができる、という内容の文章を読んで、
この忘れていたボートの感覚を久しぶりに思い出して、感動した!

センチメンタルだけどMr ChildrenのGIFT
聴いた感動ともちょっと近いかもしれない。

すばらしい本です。
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