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韓国の友人たち

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-10-3 23:20
研究マインドのある世界の泌尿器科医が集うUrology Research Societyの30回目の会がカナダ・トロント近郊で開催された。
僕自身はだいぶ前にこの会のメンバーにしていただいたが、いろいろな事情であまり参加できずにいた。

トロント郊外は既に秋の色濃く、田舎のInnといった趣の会場で、フランクに泌尿器科学のdiscussionができた。
また辺りはブドウ畑が多く、地元にもよいワインがある。
少ないメンバーでの集まりにはこういう地酒も大きな魅力だろう。
ワイナリーへのツアーもあったが、訪れたワイナリーは現在3代目、もっとも2代目は内科医、3代目は弁護士だったが、結局はワイナリーの経営に専念された由。
糖度の高いアイスワインを作るために収穫を待つブドウの房が美しかった。




日本でも外科医はどちらかと言えば焼酎だが、基礎研究者はワインが好きなのはどうしてなんだろう。




今回は韓国からも参加者が4名あった。
韓国の強みは、非常に大きな病院が集約的に症例を重ねていることで、高い技術力で欧米並みの臨床研究がすぐできるところだ。
たとえばダヴィンチロボット手術も既に30台ほど普及している。
また韓国では欧米で承認された薬剤の承認が早いため、同じ土壌で議論できる。
日本では大学病院といえども都内に14大学もあるとどうしても一つの病院での症例数は少なく、またドラッグ・ラグで薬の承認が3年程度遅れているので、日本からの研究はしっかりとした多施設共同研究を構築しないと相手にされなくなっている。
今後は韓国主導での共同研究も多くなるだろう。
泌尿器の分野でもKorean Journal of Urologyが完全英語版となるようだ。
日本の雑誌には近い将来大きな脅威になると思う。
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臨床研究デザイン塾

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-8-24 15:20
腎臓内科・透析医を対象にした臨床研究デザイン塾を見学に伺った。
この「塾」は京都大学の福原俊一教授がNPOのiHOPEと7年前から行っている5泊6日のきわめてハードな合宿形式のセミナー。

福原教授は、アメリカで臨床医として活躍したのちに臨床疫学のの道へ進まれ、
リサーチ・クエスチョンの作り方 (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト-福原俊一)
をはじめ、適切な臨床研究のデザインとは何かを確立されてこられた。ご存じの先生も多いだろう。
その深い学識を素晴らしいユーモアとホスピタリティーで若い先生方に伝える塾があると聞いてさっそく最終日前の夜から翌朝まで伺った。







まず講義のボリュームがすごい。ちょっとした大学院の1年分の内容を1週間でする高い密度で、臨床試験の構成要因を勉強していく。臨床試験のカギはPECO、交絡とバイアス。そして3人ひと組のグループでクリニカルクエスチョンを作成し、臨床試験をデザインする。伺った夜は発表前日でもあり多くの方がほぼ徹夜でまとめられていた。










翌朝、すがすがしい太陽をおがんで発表会。透析学会の秋澤理事長や斉藤明先生、腎臓内科の若き騎手の聖マリアンナの柴垣先生も交えて厳しくかつ温かいdiscussionが行われる。
こんな塾に20年前に、いや10年前に出たかった…
と痛感するも、「木を植える最大の好機は20年前、しかし次善の策は今日(中国の格言)」というわけで、さっそく福原先生に弟子入りすることとなる。

泌尿器科医にもぜひこのような塾をやりたい!
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幸福度

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-8-22 4:10
少年時代を過ごした九十九里は今でも変わらない海を見せてくれる。
人間には山好きと海好きがあるようだが、海に入ると、いつも幸せな感じになる。
サーフィンも単純な遊びだけれども、なぜだか満足度が高い。海の中にいると陸に足をつけて立っているのとは異なった、不安感もあるのだけれども、それだけに波と一体になって浮遊感を得られる楽しみはちょっとない喜びを与えてくれる。
サーファーはお金を使わない。お金を使う喜びとは異質の喜びを与えてくれるからかもしれない。消費が経済成長の原動力という観点からすれば、経済効果の乏しいレジャーではあるが、それでも海沿いの道には35年かかってサーフショップやレストランができてきた。でもみんながサーファーだと日本経済は沈没するが、幸福度は高い国になるのかもしれない。








この幸福度、男性と女性で比較すると、いろいろな調査では女性の方が高い、ということになっている。もっともたとえば日本とアメリカでは異なっていて、アメリカでは48歳を境に男性の方が幸福度は高くなる。面白いのは男性も女性も50歳以降は幸福度がアップする。つまりU字型カーブを描くのに対して一方日本では年齢とともに幸福度は直線的に減少していってしまう。忘れていたが幸福の追求は、アメリカ独立宣言に国民の人権として謳われ、日本国憲法にもそのまま翻訳されている。とするとわが国は幸福の追求にうまくいっていないことになる。
厚労省の国民生活白書にもあるように、経済力は幸福の要件ではない。きわめて貧しい状態から経済環境が改善すると幸福度は増加するが、一定以上の経済環境になると、収入が増加しても幸福度はアップしないことが知られている。

幸福について古代ギリシアの歴史家であるヘロドトス(紀元前485年頃 - 紀元前420年頃)はソロンとクロイソス王のエピソードを紹介している。諸国を旅していた賢人のソロンは、富めるクロイソス王から、誰か自分より幸福な者を知っているかと尋ねられる。ソロンは、故郷にテロスという者がいて、正直な男で、評判の良い子供を残し、祖国の為に勇敢に戦って名誉の死を遂げた。これほど幸福な者はいないと答えて、クロイソスの怒りを買うという話だ。この話は自分自身が幸福と感じるかということではなく、むしろ幸福な人生とは何かという価値評価であるが、幸福かどうかは生涯最後になって分かるものだということ、そして国家と一体になったということが、幸福の評価ポイントとなっている。

国家社会は、われわれの社会においても、個人の私欲の追及を保証し、生存と幸福を約束してくれていることは事実である。哲学者の田中美知太郎は幸福の基本的条件は価値がばらばらに分裂していないこと(人生論風に)と述べているが、自分の価値が自分の属する社会や国家と一体化すること、そのためには他人のために働き (利他行為)社会や国家に何らかの貢献をすること、は確かに幸福の要件かもしれない。David Myersと Ed Dienerは1995年の幸福研究のランドマーク論文である、”Who is happy?”の中で幸福度が高い要因として、自尊心があり、自制心を持ち、楽観的で、外向的な性格が幸福度が高いことを示している。この性格の外向性、内向性はカール・ユングが提唱した分類である。また脳生理学では幸福感は報酬系のシステムとしてドーパミンが側座核に働いて起こることが知られている。一方幸福度が決定的に損なわれるのがうつである。これは神経伝達が全く反対方向になるといっても過言でない。ということは幸福とうつはmutually exclusiveにほかならない。

ところでこの幸福度と健康について最近様々な研究が出てきた。幸福度が高いと、死亡率や特に心臓血管疾患の罹患率が高くなること、また楽観的な人は長生きをすることなどのデーターが示されている。
うがった見方だが、男性の幸福度が女性よりも低いことが男性の平均寿命が絶えず女性よりも短い原因かも知れない。

僕らは宮古島をコホートにして、唾液中のテストステロン濃度とQOLや満足度、介護などさまざまな項目との相関を検討したところ、男女とも65歳以上でテストステロン濃度が高いとQOLが高いことがわかった。テストステロンのレベルも健康長寿に関係すること、テストステロンはセロトニン産生を刺激することから考えてみると、テストステロン値は幸福度と関連する指標かもしれない。

最近のNew England Journal of Medicineに加齢による性腺機能低下症(LOH)の疾患の定義と診断が提唱されている。うつ、疲労、激しい身体活動ができないこと、性欲の低下、ED、の勃起の消失が血中テストステロン濃度と関連し、特に性欲の低下、ED、朝の勃起の消失が、テストステロンのカットオフ値の決定(320 ng/ml以下)に関与した。厚生労働省もうつ病対策に、職場でのスクリーニングを重視しているが、幸福度を反映するバイオマーカーが、おそらくうつをはじめとする健康リスクや、そもそもの企業や組織の労働環境ひいては、生産性にも関係してくると思う。
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腫瘍外科医の役割

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-7-17 23:30
順天堂大学でのがん専門家養成コース、通称がんプロで話をさせていただく。

コースディレクターである乳腺外科の斉藤光江先生からは、腫瘍外科医の役割という重いタイトルをいただいた。

ヒトの臓器には、それぞれ特有の幹細胞と呼ばれる細胞があり、普段は静かにに何もしていないが、臓器が損傷を受けるとやおら分裂して、損傷を修復する細胞である。
本来精子と卵子が受精してから個体が完成するまで、このような分化と呼ばれる、細胞の変化は一方向と考えられたのだが、たとえば皮膚の細胞が何らかの処置により、あらためてどの臓器になれる、iPS細胞も広い意味での幹細胞であろう。
そこから、臓器から発生したがんにも幹細胞がある、という概念が登場した。
Nature. 2001 Nov 1;414(6859):105-11.

このがん幹細胞は、抗がん剤や、放射線に基本的に抵抗性である。
ということは、現在のところ、手術でがん幹細胞をすべて含むがん組織を摘除できれば、がんは治癒し、がん細胞が残ると治癒しないということになり、手術の究極的な意義はがん幹細胞を取り除いてしまう、というところにある。
そのうえで、膀胱がん、腎臓がん、前立腺がんにおける手術の意味を考えてみた。
膀胱を摘出すると最大の問題はどこから尿を出すか、ということになる。
標準的には50年前に開発された、15cmの腸に尿管をつないで、体表に出口(ストマ)を持ってくる回腸導管。
問題は人工肛門と違い尿はのべつまくなしで腎臓で作っているので絶えずそれを皮膚の表面でうけるもの(パウチ)が必要なこと。
絶えず皮膚が尿でぬれるし、またパウチを貼り続ける必要がある。
そこで腸を長く切り取り、切り開いて膀胱の形に縫いなおすのが新膀胱である。自分の体だけで生活できる喜びをお話しした。
腎臓がんでは、現在腹腔鏡手術が中心となっている。
背中の背骨の両側にある腎臓を摘出するのには筋肉を大きく切開する必要があった。現在では腹腔鏡手術で創が小さいだけでなく、体幹の筋肉を切らなくてよいという大きなメリットがある。
また腎臓のがんを部分的に切除する方法もこの25年で普及した。腎臓を部分的に切除できると腎臓の機能が保たれる。
今腎臓の機能がわずかでも落ちると、心臓や脳梗塞などの病気の危険性が高まることが知られているが、以前は疑問視されていたこの手術法ががんの治癒率をみても遜色ないことが腹腔鏡同様明らかにされている。
最後に前立腺がんは現在わが国でもっと増加しているがんであり、わが国では健診の遅れから、まだ多くの方が亡くなっている。
一方がんの早期では、治療法がいくつもあり、整理がついていない。
どのようながんがどういう治療を受けるべきか、また女性が乳房を手術で失うことがつらいように男性も前立腺を失うことは大変なことである、ということから外科手術には緩和医療が最初から必要である、ということをお話しさせていただいた。
いずれは、前立腺を丸ごと摘除するのでなく、がんの場所がわかればそこだけをミサイルのようにピンポイントで治療する時代が必ず来る、と思う。

外科手術は本来は急に起こった苦痛や生命の危険を除くために行われてきた。
いわばインフォームドコンセントが存在せず、対応した医師がベストと思う治療を行うことが求められてきた。
現在はこのような場で手術を行うことはむしろ少なく、がんではほとんどが症状がない段階で発見され、治療される。
「がん」と聞いてキツネにつままれる思いの方も多いはずで、その中で手術で失うものがあることは耐えがたい。
僕が医学部を卒業した年に出版された「ガン病棟のカルテ」(庭瀬康二)という本には当時すでに、

•メスによって人間の苦しみを除く労働が、情熱をもって取り組めるテーマか?
•手術をいやがる老人に、なぜ手術の苦痛をあたえてまで手術を強行しようとするのか?
•老人の手術が増えるにつれて、メスの力によって確実に苦痛を除去するケースや、メスの労働が患者と家族の感謝の念をもって報われる場面が少なくなっていった。
 
という問題提起がされている。
現在外科医志望者が減少しているのも、仕事がきつく自由な時間が少ない、といった表層的な理由よりも、このような内在的なジレンマを医学生が敏感に感じ取っているからもしれない。

しかし外科医は必要である。
そして技術の習得をiPhoneのように革命的に容易にする必要がある。
ロボット手術も一つの方向であり、また画像検査と手術を一体化していくこともいずれ一般的になるだろう。
来週親友の杉本真樹先生を中心にした医療を変えるはじめての大きなイベントが催される。未来に敏感な研修医や学生諸君はぜひ参加されたい。

いずれにせよ
•外科医は忽然と生まれるものではない。むしろたゆまぬ努力によって日一日と外科医になっていくのである。
•一つの手術をやり終えたあと、一つの決定をしたあと、一つの危機にぶち当たったあと、それなりに外科医らしくなっていった、と今になってわかるのである。
(外科医の誕生 The making of a surgeon by William A. Nolen 1968)

この言葉はいつも正しい。

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緩和ケア講習会

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-6-6 4:30
昨日、今日と帝京大学病院で緩和ケア講習会が開催された。

「がん対策基本法」およびそれに基づく「がん対策推進基本計画」に示されているように、
すべてのがん診療に携わる医師は、緩和ケアの基本的な知識を習得していることが期待されている。
従来の緩和ケアは、ホスピスのように積極的な治療が行われないがん患者さんへの疼痛や苦痛への対症療法という位置づけであったが、
現在は治療の最初から同時にスタートし、またがん医療のみならず、
難病などよりひろい領域に適応されてきている。

講習会は平成20年4月に厚生労働省から出された
「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会の開催指針」(平成20年4月1日付け健発第0401016号厚生労働省健康局長通知)に基づき、
日本緩和医療学会が開発した、医師に対する緩和ケア教育プログラムPEACE(Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education)に準拠している。

プログラムのスライドは
http://www.jspm.ne.jp/gmeeting/peace-dl.html
よりダウンロードできる。

講習会では疼痛コントロールとしての麻薬の使用法、導入の仕方などきわめて実践的であり、
これまでの臨床経験を実際に検証することができた。爽やかな天気の休日2日間を費やしてもやはり免状とバッチをもらうと嬉しい。












プログラムの中では自分が患者さんになり、
がんの告知のようなよくない知らせを受けるロールプレイゲームも行った。









患者役を経験して、どのように知らせ、病気の内容そして対応策を患者に伝えるのか、
あらためて外来のあわただしい時間では難しいことを実感した。
やはり患者さんは、医師だけでなく、
ご自身がこれから受ける治療がうまくいっているような経験者からの
ピア・サポートを受けることが本当の安心感につながると思う。昔の先生は、がんの告知と同時に患者さんを入院させてしまっていたが、入院日数を極力削減しなければならない今日では望むべくもないものの、入院することで強制的にピアをつくってしまうこともプラスなのかもしれない。
講習会でも認知症のかたはがんの進行が遅いことが話題になっていた。ストレスががんの進行にも関係するのであれば、治療自体が大きなストレスになることも問題だ。

先週笑顔で、がんに効くという秋田県の温泉へ行きます、という方がおられた。東北には温泉が多く、長時間の湯治スタイルで冬を過ごすようになっている。厳しい冬の中、友人を得て共同炊事など行うことが、1年の厳しい労働を癒し、うつの予防にもなっているのではないかと思う。がん治療もきっと効果があるのはお湯や岩盤浴だけでなく、周りの人と話をすることなのかもしれない。
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TEDxTokyo2010

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-5-16 23:01
TEDxTokyo2010.がお台場の日本未来館で開催された。

TEDはideas worth spreadingをテーマに世界中のcreativeな、
あるいはinnovativeな人たちが20分くらいのpresentationをするセミナーで、artありサイエンスあり、哲学、経済学など
極端な話現在の知と芸術の多くを知ることができる。
当初は、ビルゲイツもTEDには欠かさず出席していたらしい。
このTEDがいろいろな地域や国で、さらには大学でも開催されるようになり、日本で2回目が開催された。












朝の9時から夜6時までほとんどの人が帰らずに、31人のtalkやパフォーマンスを聴いていたというのも、学会ではありえない、不思議な熱気だった。聴衆の60%以上は外国人。
演者のリストは http://tedxtokyo.com/で見ることができるが、
まずopeningはJake Shimabukuroの素晴らしいとしか言いようがない
ウクレレのパフォーマンスに感動!
While my guitar gently weeps 

Talkでは映画監督の龍村仁さん、難民の日本受け入れに奔走する国際人権活動家の土井香苗さんの話が、元気が出るという意味で面白かった。

また起業家、デザイナー、宇宙科学者などのcreativeな人たちのpresentationは実にすばらしい。
またロボット工学はまさに百聞は一見に如かず、すばらしいパフォーマンスにはスタンディング・オベーションが。




あわせてTEDからのIビデオ上映でDerek Silversが、どうやってmovementを起こすか、すなわち思いつきで「アホな」リーダーに続く、followerが重要という話がきわめて面白かった。従来のリーダーシップ論に欠けているものがよくわかる。

また宗教歴史学者の Karen Armstrongは、すべての宗教の教えは結局、思いやり(compassionate)ということ、それがgolden ruleだと話していて、ダライ・ラマ師と全く同じことを話していることに感慨を覚えた。

昼休みには電気自動車のスポーツカーTeslaもデモされていた。家庭用電源で23時間の充電、で200Vのコンセントつき。10年後はどうなっているんだろう。




会の運営はすべてボランティアの人が携わるということもすごいし、そのあとのpartyの盛り上がりも尋常でない。会場では、ホルモンの話で結構盛り上がった。久しぶりにエキサイトした晩だった。
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ギリシャ

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-5-9 4:30
ギリシャの金融危機がニュースになっている。
実はそのちょっと前に国際学会でアテネに出張した。




街の空気はのんびりとして、アクアポリスも観光客でにぎわっていたのが、
わずか数週間で街中にも大規模なデモが起こり、死傷者まで出てしまっている。












不思議なのは、こういう投資や投機が、ある時点で不履行を招くことが不可避になることがわかっていながら、事がぎりぎりになるまで何の手も打たれなかった、という事実だ。




新聞の報道では、ギリシャでは少数の富裕層が経済を支配しており、
また賄賂や脱税が横行している。
さらに公務員の給与が平均給与の3倍にもなるとのこと。
確かにデモの中心が公務員ということから、
問題は国民全体でなく、また国民を政府を信用していないのだろう。
なんだか対岸の火事とも思えない。

日本も国民から借金をして国を運用しているわけだが、
point of no returnを越えてしまったとも言われている。
消費税を上げることはともかく、国民へのサービスとコストを論議することが望まれる。

昨日報道された医療費の自己負担額軽減策にしても、
個人としては、大変ありがたい施策ではある。
しかし、願わくば高額医療により生存時間を延ばすうえではさらにQOLがよくなってほしい。
つまり説得力あるグランドデザインを政府が発信すべきであろう。
しかしそれはまた間接民主制による合議が難しい領域である。

一方タイでは、地方の農民の怒りが炸裂している。
日本が60−70年代に経験した、青年の異議申し立てが、今農民によりなされている。
民主主義は間接民主制を基本とするのだが、
怒りのパワーが大きくなれば間接民主制がゆきづまってくる。
日本は幸い高度成長がこの怒りを吸収したが、その過程で見過ごされてきた問題、コミュニティーの喪失や、豊かな街づくりといった問題が現在噴出してきている。
イギリスも日本も政治が不安定になっている半面、
韓国やマレーシア、ベトナムは比較的政治が安定して、国力が伸びつつあるようだ。
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がん治療 場と戦略

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-3-12 4:40
帝京大学病院がんセンターでは、
毎月帝京がんセミナー、および帝京がんリサーチセミナーを行い、
医療関係者に対して最先端の医学情報を学ぶ機会を公開している。
しかし、がん基本法に基づくがん拠点病院の趣旨としては、
まず患者、家族、そしてがんについて情報を得たい市民へ、
アプローチできることが必要と感じていた。

3月4日、帯津良一先生をお招きして、医療関係者のみならず、
市民公開講座も兼ねたがんセミナーをはじめて開くことができた。
医療関係者と市民が同じ平面で聴講する、ということは
あまりない試みだと思う。
大学関係者やスポンサーのご厚意がありがたかった。




当日は雨が降る夜の講演会にも関わらず、
150名という予想外の多くの方が集まっていただいた。
帯津先生はがん治療を中心にホリスティック医学を展開されておられ、
先生が創設された川越市の帯津三敬病院には
全国から多くのがんの患者が集まっている。
帯津先生とは僕が国立がんセンターにいた時から、
お付き合いがはじまり、年に数回いろいろご指導をいただいている。



講演ではメメント・モリの藤原さん、
がんに効く生活のシュレベールさんや、
直観の哲学についてはベルグソンの言葉を引用されながら、
自然治癒力、生と死をとおした、がん治療の場を論じられた。

自然治癒力が、浄土が現在化するときに発揮される、
というような哲学的な話が中心であったが、
むしろ患者のかたがたにはすーっと入って行ったのではないだろうか。

印象的であったのが、医学は戦場におけるlogistics であり
医療はfront 前線、であると述べられたこと。
Logisticsは、必要な物資を調達すること、という意味だろうか。
この意味では医学はむしろ方法論の一つであり、金科玉条のものではない。
よく薬物の効果は、偽薬(プラセボ)を上回ることが
科学的な意味付けとなっているが、
まさにプラセボは自然治癒力の可能性を示している、
という先生の指摘にははっとした。

帯津三敬病院内には20を超える気功のプログラムがあり、
がん治療をむしろ合宿しながら行っていく趣きともいえる。

最近、マウスを1匹飼いするよりも大勢のほうが、
癌で死亡するまでの時間が長い報告が出た。
Social isolation dysregulates endocrine and behavioral stress while increasing malignant burden of spontaneous mammary tumors.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Dec 29;106(52):22393-8.

これは、20年前のLancetの衝撃的な論文、
転移がある乳がんの患者で、グループで集まる心理セラピーがある方が長生きをする
Effect of psychosocial treatment on survival of patients with metastatic breast cancer.
Lancet. 1989 334(8668)888 
を科学的に証明したものだと思う。

帯津先生の病院では、患者がある意味連帯している、
それが「気」を生み、期待へ、希望へと変化していくのではないのかと感じた。

終了後何人かの患者さんからもよい話だった、と伺い、
この試みはよかったと感じたが、
医療者の中にはなかなかなじめない部分もあったかもしれない。

帯津先生は最近では五木寛之さんとの対談も行っている。
ぜひお読みください。

健康問答―平成の養生訓 (平凡社ライブラリー)

生きる勇気、死ぬ元気(平凡社)

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ビタミンとカロリー制限

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-3-11 4:40
カロリーを摂取することによって生じる活性酸素が、
細胞内の蛋白や、脂質、DNAなどの細胞の
さまざまな分子を酸化させることで、細胞の機能が低下し、
あるいはDNAに遺伝子変異が起こり発がんがおこる。
この意味で生活習慣病は、
酸化ストレスによって起こるといってよいだろう。

では酸化ストレスを少なくするのにはどうするか?

抗酸化物質を摂取することにより酸化ストレスは少なくなる。
たとえばビタミンCを摂取すると
血液中の酸化ストレスは実際減少するのだが、
しかしこれまでビタミンCが生活習慣病を予防できるという、
確実なデーターはないようだ(知らないだけかもしれないが)。 

昨年アメリカ医師会誌に、
ビタミンEとCを摂取して前立腺がんを予防できないか、
という大規模な臨床研究の結果が報告された。
結果は一目瞭然で、
ビタミンEとCの摂取は恐るべきことにまったく、
前立腺がんの発生率に影響を与えていない。


Vitamins E and C in the Prevention of Prostate and Total Cancer in Men.
(JAMA. 2009;301(1):52-62 )

比較的短期間だから差が出なかった、
もっと若い時からスタートしないと意味がないだろう、
という意見もあるだろう。
ところが、Ornishのグループの研究、
すなわち、低脂肪、低カロリー、野菜と果物に軽い運動、
デ・ストレスと週1回のグループワークという生活改善は、
実際に腫瘍マーカーPSAを下げ、
前立腺の細胞で働いている遺伝子を
悪玉から善玉に変えてしまっている。
Changes in prostate gene expression in men undergoing an intensive nutrition and lifestyle intervention.
(PNAS 2008;105:8369–8374)
この結果と比較すると、ビタミンはどうも旗色が悪い。

ではもう一つの方法、カロリー制限はどうなんだろう。
カロリーを制限すると実験動物ではマウスやサルでも
飽食の動物よりも長生きして、かつ活発なことが報告されている。
サルでは、加齢に伴う生活習慣病(心臓病や糖尿病)、がんも
カロリー制限をした群では少なくなっている。
(もっとも生存率全体を比べると
  劇的な違いというわけではないのだが)

このサルの実験から、
「よしおれも明日から小食に!」と思うか、
「まあ暴飲暴食しないようにするか」と取るか、
いろいろな考え方があると思う。
NY Timesのコラムニスト、自称GlobalistのRoger Cohenは、
「飽食のサルがゆったりとくつろぎ(laid-back)、
たるみきった顔がかえって、
過ぎ去りし栄光のよすがを思い出させてくれるのに対して、
食べきれなかったサルは老いてもなお落ち着きがなく、
充足できなかった人生に未練を残している」
とうがった見方をしている。

さて、マウスでもサルでも論じられていないが、
ハエや線虫では、カロリー制限をすると、
長生きはするものの生殖能力が落ちてしまうという問題がある。
これまではアミノ酸が悪玉で、
アミノ酸がないと生殖行動に差しさわりが出る代わりに
寿命が長くなるとされていた。

これをアミノ酸の一つ一つを餌に入れたり出したりした結果、
メチオニンがとりわけ、生殖と寿命に関係することが分かった。
Amino-acid imbalance explains extension of lifespan by dietary restriction in Drosophila.
Nature 462, 1061-1064 (24 December 2009)
つまり生殖力を上げるにはメチオニンをとり、
かつ長生きしたければメチオニンを減らす、ということである。
(ただしハエのばあい)

メチオニンは卵や肉に含まれているから、
なんとなくなるほど、という気もする。
また、がんの方への食餌療法は洋の東西を問わず、肉食をすすめない。
しかし、メチオニンが減るとテストステロンはどうなるんだろうか?
ゆで卵一つでも迷ってしまう今日この頃である。

また前立腺がんへ戻ると、前立腺がん患者の統計であるCaPSUREから、
卵と、鶏の皮を食べると癌が進行する
(がんによる死亡や転移、PSAの上昇、治療の変更や追加)
ことがわかった。
Intakes of meat, fish, poultry, and eggs and risk of prostate cancer progression.
(Am J Clin Nutr 2010 91: 712-721)  

これもメチオニンが関係するかも。
でも鶏の皮はおいしいけど
しょっちゅう食べることはあまりない気がする。
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健康長寿

執筆 : 
Shigeo Horie 2010-1-11 12:49
新しい年になりました。
昨年母が亡くなり、しばらく発信できませんでしたが、あらためてurologistをよろしくお願いします。

新年の話題はずばり健康長寿。

ナショナルジオグラフィックのDan Buettnerが,世界の長寿村(Blue zone)での取材を形にしたものです。

TED.comでの彼のプレゼンでは,
長寿は、薬やサプリやオーガニックフードの探求からではなく、
生きがいとコミュニティーと粗食(ただし加工や汚染が少ない)そして、筋肉活動からもたらされるとしています。
また踊りや歌といったデ・ストレスも重要のようですね。
また地域活性化を目指したVitality Projectも行っています。

Biologicalな健康指標はもちろんひとつではありえませんが、
何かひとつといえば、テストステロンではないかと考えています。

テストステロンレベルが寿命と関連している論文が増えていますが、
最近東京大学ジェロントロジー機構と帝京大学泌尿器科学の共同研究で、宮古島で行った健康指標調査では、
唾液テストステロン濃度が社会参画度や認知症予防に関与するデーターが出てきました。
今後大きなコホートで調査できるといいなと思っています。

もっとも、誰でもセンテネリアンになれるわけではなく、DNAによって決定されて部分が大きいでしょうが、
自分の持つDNAの推定寿命を10年延ばすのには?に応えて現在の健康年齢を教えてくれるのがVitality Compass。
ぜひ皆さんもトライしてみて下さい。
面白いことにいわゆる健康(疾病)履歴のみならず社会参画度やストレスも評価できます。

僕自身は最近飲酒量が増えているにもかかわらず生物学的年齢はまだ、暦年齢よりも若い数字が出てくれたので満足。
それでも推定余命と健康寿命の間には驚くべきことに15年の隔たりがありました。ぞっとする数字です。

デ・ストレスのために早速ヨガにトライしました!
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